あたしたちのバスストップ

電車に乗ってたら、ばあさんが目の前でなんか言ってきた。
イヤホンしてたから何言ってたかまでは聞き取れなかったけど「席を譲れ」という意志は聞き取った。
あたしたちは戦いたかった。
ここはあたしたちが勝ち取った「狩場」だ。
後から来て横取りなんかできるわけがないだろうよと。

でも、席を譲った。
他人に優しくなれないイイ女には神様は内定をくれないから。

ばあさんへの施しが、いつかあたしたちの元へ帰ってくる。


正直、席を譲ったりするような人間じゃない。
そんなに席に座りたけりゃ自分がどれだけ「座らないといけないのか」説明しろよ、と思う。
ばあさんってだけで席が勝ち取れると思ったら大間違い。
上でも書いたけど、ここはあたしたち「イイ女」の狩場だ。
力ないものは淘汰される。花は咲いてこそ踏みにじられるのだ。

でも、正直あたしたちみたいなイイ女がこぞってばあさんになったら大変だろうな、と思う。

ダッシュで駆け込み乗車してきて、その足で優先席の前に立って、顔覗き込んで
「ァんでババアに席譲らねえんだよ?」って喚き散らしてしまいそう。

他人に優しく自分に厳しく、なんてばあさんになったらできるわけない。
あとは死ぬまでの一本道ラストスパートである。
この「狩場」で生き残るには、文字通り若い芽を刈り取るしかないのだ。

そして、ついさっき病弱そうなばあさんに刈り取られたのがアタシってワケ。