あたしたちのシンデレラを書いて

シンデレラという映画を(テレビで)見ました。

なんか、あたしたちの中ではシンデレラって「姉の踵を切り落としたお姫様」のイメージが強すぎて、そのイメージをアウトプットしたい!と思いましてね。

ちょうど時間も多くあるので、実際に短編(1万字近いですが)として書いてみた次第です。

 

漫然と、なにか物語が書きたいと思ってて、出来の良し悪しとかディズニー映画のシンデレラ像ぶち壊しとかはさておき、あたしたちなりの解釈でシンデレラという物語を書いてみたわけです。

 

大筋としては、wikipediaあたりで知恵をつけて書いてみたんですが、

まぁ、お母さんと死別して、お父さんとも死別して、その再婚相手の継母と、血の繋がらない姉に虐げられ、お城のパーティに忍び込み、王子様に見初められ、ガラスの靴を落とし、見つけてもらうわけなんですよね。

 

そこで、あたしたちのシンデレラでは、お母様が非常に病弱であったと設定に入れました。死因自体は、当時の流行り病ということにして、あまり近寄ってはいけないもの、としました。

父親は善意と愛情から、病を持つ母親に近づけたくない一心と、強く生きて欲しい願いを愛娘に託すわけですが、ここで娘のシンデレラは、自分自身に強烈な暗示(呪い)をかけてしまうわけです。

つまり、母親が死んだ直接の原因は自分で、臍の緒から母親の養分を吸い尽くしたばっかりに、母親を殺してしまったと思い込んだわけです。

 

そして父親も死にましたが、母親ほどの強烈なイメージは持ちません。あっさりとその死を受け入れられたのは、自分は他人の養分を吸って生き長らえる化け物なのではないかという不安が、既にシンデレラを蝕んでいたからです。

それよりも、父親に再婚相手がいたことに驚き、おそらく当時としては珍しくない再婚ということも「恥知らず」だと糾弾します。なぜなら、自分は母親の死から逃れられず、家からも逃げられず、荊のトゲに全身を引き裂かれているのに、父親がその責め苦から逃げたことを恥だと思っているのですね。

 

年頃になり、私はもうお嬢様ではないのだから、と周りを突き放すようになります。する必要のない農作業や家事をし、男に混じって薪割りをすることで、自分一人で生きていく決心をするのです。

父親も喪い、天涯孤独の身になったシンデレラは、母親を亡くした責め苦により、孤独に生きる覚悟を決めます。

 

でもそこに現れたのは、父親の再婚相手である継母と姉たちです。

継母は「私たちのことを無理に家族と思う必要はない」と言いますが、シンデレラと離れて暮らそうとはしません。天涯孤独に生きるシンデレラを思ってのことですが、シンデレラはそれらをはねつけます。

二人の姉も、家族として接するようにしますが、容姿がシンデレラよりも劣っており、都会風の佇まいから「売春婦のよう」だとシンデレラに一蹴されます。上の姉に至っては、なにげなく声をかけたことがシンデレラの逆鱗に触れ、玄関先に追い出され、熱いバターを頭からかけられます。シンデレラにとって、パンにバターをつけるかつけないかは瑣末な問題でしたが、継母たちのすることなすことがいちいちと気に食わないのでした。

 

シンデレラは父親の商売を継ぎ、畑仕事と並行して、社長業(のようなもの)をするようになります。とはいえ、事業を大きくすることも考えておらず、社員と自分の食い扶持を確保するためにやっているだけで、商売はさほど大きく動きません。ダンスパーティーでも、ちょっと顔見知りとお喋りをしたくらいで済んでしまう程度のもので、それよりもシンデレラは「男のように働けば、女の私なんてすぐに病んでしまうだろう」と考えます。ですから、女だてらに男として生きることに対して、特別な思いはありません。ただ、自分の身を粉にしたいだけなのです。(遅かれ早かれ、会社は潰れてしまうでしょう。)

 

シンデレラは、お城に招かれるまでになった自分の商売人としての立ち位置にも苦悩をします。母親を殺した罪をあがなうだけでやっている仕事が、シンデレラに地位と安定をもたらしたのです。これではシンデレラは不幸にはなれません。

お城で王子様と初対面を果たしますが、いけすかない優男だけど、悪くないかもな、程度に受け入れます。

そこでもまた、シンデレラにとって嬉しくない誤算が生まれます。この男とだったら、自分の人生を楽しく生きられるようになるかもしれない、と思った男が、この国の王子だったのです。シンデレラは苦悩します。幸せへの階段を上がっていくことに恐怖したのです。シンデレラにとって、自分は生き血を啜る化け物だという認識は、冗談でもなんでもなく、ましてや他の女だって(継母だって、姉たちだって、町の娼婦だって)シンデレラにとっては当たり前のことなのです。

 

もう時間だわ、とシンデレラは言いました。夢のような時間はもう終わり、魔法が解けた私は、また呪いの生活に戻るのよ、と自分を律します。

ガラスのように美しく繊細で、それでも自分が憎くてたまらないシンデレラを、王子は愛し、そのうえで「そんな女は愛せない」と言い放ちます。それは、王子としては、お願い事のようなものでした。「自分を蔑まずに、自信を持って生きて欲しい、僕は貴女のことが好きなのだから」その願いはシンデレラには届きません。

王子様の好意に値しなかった自分は、父親からも愛されなかったと坩堝に陥ります。父親の「お前のことは愛しているが、妻の命を奪ったお前を許すことができない」という幻聴を聞くことになるのです。

朝起きると、シンデレラの体は動かなくなっていました。呪いがシンデレラを蝕み、張りつめていた緊張の糸が王子によって解かれ、更にまた呪いの責め苦により張られて、ついには糸が切れてしまうのです。

シンデレラはこれまで以上に継母と姉たちをはねつけます。継母と姉たちには、シンデレラの呪いはわかりません。共に生きていきたい、という継母たちからの愛情に共感できないシンデレラは、とうとう「そんなに王子様に嫁入りしたいのなら、踵の骨を折ってガラスの靴が入るようにしたらいいじゃない」とハンマーを持ち出し、下の姉に暴行を加えようとするシーンで物語は終わります。

 

続きは、取り急ぎのハッピーエンドとしての終わりです。

継母は、自らの娘に暴行を働こうとするシンデレラを拒絶しますが、それはあくまでも愛に満ち溢れています。ガラスの靴の持ち主はシンデレラなのだから、自分たちの目の前から消えて欲しい、私たちとは築けなかった幸せも、王子様ならきっとできるであろうと、シンデレラを放り出すのです。そこでまたシンデレラは拒絶されたと感じますが、更に上の姉が追い打ちをかけます。「どんなに愛されたいと願っても、自分が心を開かなければ、何も受け入れることができないこと」を諭します。

正しく、希望のある言葉ですが、呪いの責め苦により、シンデレラの心は更に蝕まれていきます。

 

王子と兵士たちが、ガラスの靴の持ち主を探しますが、シンデレラは、靴を履くのを促されるまで動こうとしません。上の姉が履き、下の姉は容姿が醜いことから後回しにされました。踵を壊そうともそうでなくとも、彼女には姫探しに立候補する権利さえもなかったのです。そこで、歪んだ自信を身につけたシンデレラは、兵の中に紛れ込んだ王子を見抜いてこう言います。

「愛せないと言ったのは貴方なのに、なぜ今更になって追いかけるような真似をするの」と、分不相応にも王子に物申したのです。

 

王子は、シンデレラにかけられた呪いの重さに気づきます。彼女は、愛せないと言われた事実にのみ固執し、前後の脈略や、言葉の真意を汲み取っていなかったのです。なので、王子はもう一度、本当に言いたかった言葉を、ゆっくりと確実に、シンデレラに伝えます。それ以上の情報は伝えません。

「僕は君に、好きだと言ったんだ」と。

その事実だけを、何度も繰り返しシンデレラに言い聞かせることで、シンデレラにかけられた呪いはいつか消えることを、王子も、継母たちも、シンデレラ自身も願うのでした。

 

というのが、書きたかったあらましなんですが、なかなかどうして、文章にするとなると難しいものですわね。

 

今思いついた結末です。

 

シンデレラが我が子を身籠もる時に、呪いを産み落とすことに成功するのです。産まれた子も自分も、元気でいられるということは、愛情というものはそもそも、対価により得られたり失ったらするものではなく、自然と湧いて尽きることがないもの。母親の養分を吸い取って産まれた自分が母親を殺したいう認識を改めたのでした。